東京医科歯科大学インプラント同門会第10回総会・懇親会のご報告

2017年7月9日(日)13時より歯学部付属病院4階演習室にて第10回総会が行われました。今回は歯内療法専門医の吉岡隆知先生,審美領域のインプラント治療でご高名の中川雅裕先生にご講演いただきました。

13時05分 総会
まず岡田先生より,今回で総会も節目の10回となったことから今後の会の運営として,学術的な講演と懇親の場というそれぞれの側面にメリハリをつけた運営を検討していますとのお話がありました。次に金子先生より会計の中間報告と会費納入のご依頼がありました。

13時20分 石渡 正浩 先生 ご講演
『医科歯科大学における即時負荷インプラントの臨床成績』

石渡先生からは,医科歯科大学インプラント外来における即時埋入症例の検討から得られた知見をお話しいただきました。検討対象とした86症例/412本のうち脱落は6.3%・26本生じており,脱落症例には「上顎」・「埋入時トルク35N未満」・「インプラント体長さ10mm以下」という共通点がみられました。
石渡先生の臨床経験と今回の検討から,即時埋入に際して次の提言がありました。①埋入は骨質のよいところへ。②インプラント体全体のアダプテーションをタイトにし35N以上のトルクをかける。③テーパー形状のインプラント体は避ける。④埋入がカラー部でとまっているものは骨吸収がみられていることから骨縁までインプラント体を埋入する。⑤暫間補綴装置の形態に注意を払うこと。⑥ガイドを過度に信用せず使用時には精度・適合を確認する。
近年は開業医でも前歯部審美領域やIODなど免荷期間を短くするニーズは高く,多数の症例写真・解説を交えながらの即時負荷のコツ伝授のご講演はとても興味深く聴かせていただいました。

14時15分 吉岡 隆知 先生(東京医科歯科大学非常勤講師 吉岡デンタルオフィス)ご講演
『歯内療法専門医からみたインプラントの適応』

吉岡先生からは歯内療法治療の極みと,歯内療法専門医が感じるインプラントの必要性についてご講演いただきました。歯内療法は日常臨床において最も頻度が高い治療の一つでありますが長期予後等について纏まったお話を聞く機会は意外と少なかったのではないでしょうか。今回は実際の症例を通して歯内療法の匠の技についてじっくりとご供覧いただきました。
歯内療法の分野では予後に関して「サバイバルレイト」と「サクセスレイト」という概念があり,いわゆる生存率を「サバイバルレイト」と呼び,根尖病巣がない(消失した)割合を「サクセスレイト」と称しているそうです。そして専門医の治療では「5年サバイバルレイト」89%,「サクセスレイト」75%という統計結果がでており,数値が経年的に小さくなっていくのが根管治療歯にみられる特徴(インプラントのサバイバルレイトは経年的にあまり変化しない)とのことでした。根管治療歯では,有髄歯よりも最大咬合力が優位に高く,アンキローシスを生じた歯は経年的に低位になる(これは他の歯が微妙に(0.07mm)萌出している為相対的にそう見える)等の報告が近年行われており,この問題はインプラントにパラレルに生じるものであることから,対策は今後の課題・研究テーマになるのではないかとのご意見がありました。
インプラントと比較される歯の移植に関しては,適切な治療であれば20年程度は良好に経過するが,最終的に歯根吸収が生じるため,患者さんの年齢や部位等を考慮する必要があり予後については事前の十分な説明が必要とのご指摘がありました。
米国においては,①エンド②クラウン③ブリッジ④インプラント,英国では①エンド②再エンド③インプラントの順で治療が選択される傾向が報告されており,エンドにより保存するか,インプラント治療を行なうかの最終的な決定には保険制度の影響もあるが,特異的状況と一般的な因子の両方を考慮する必要があるとのご教示をいただきました。

15時25分 中川 雅裕 先生(八王子市 中川歯科医院)ご講演
『包括治療におけるロンジェビティー:歯周組織・インプラント周囲組織の重要性』

中川先生からは,インプラント治療における戦略的な審美・機能回復についてご講演いただきました。
まず治療においてはトータルで物事を考えることが必要であり,ストラテジーとタクティクスが重要,「戦略なき戦術には勝機なし」であること,そして計画を実践できる技術(埋入手技は勿論,角化歯肉の処理技術等々)を日々磨くことが必要であるという基本理念について実際の症例での具体的経過を示しながらお話しいただきました。
そしてご自身の四半世紀に亘る臨床において経験された多数の症例を難易度・部位に応じて詳細にご説明いただきました。特に難易度の高い前歯部歯肉マージンラインの回復においては骨のマネージメントが大切であり,gingival recession の予防には唇側に少なくとも2mm(GBRを行うなら4mm)の骨が必要とのご指摘がありました。実際の臨床の場面で骨を残し,乳頭組織保存のためには抜歯前の歯根を(MTAで根充するなどした上で)暫間補綴物の内面にゴムを装着し挺出させる等の手技が有効であることや,結合組織移植に用いるドナーとしては上顎結節後ろの歯肉が特によいこと,サージカルガイドは中級者では使いがちであるがズレを生じた経験もあり現在は使用していないこと等,ご自身のご経験から得られた貴重な知見をご披露いただきました。
症例のご説明では難易度をご自身の趣味であるゴルフにリンクさせたユニークで大変綺麗なスライドをご用意くださり,同じ症例でも初心者・中級者・上級者では見えている景色が違うこと,そして次に狙っている地点も異なること,現在の自身の経験値を客観的に把握し,今の技術で最も効果的に攻略できる作戦を立てられることが大事であること,など歯科医師としての臨床に対する姿勢についても深く熱くお話しいただきました。
「スタンスをとってしまえば全ては決定したのだ,なすべきことはただひとつ,Ready to Go!」という言葉が心に残るとても印象深いご講演でした。

17時 アルメイダにて懇親会
講演の質疑応答が盛り上がり,懇親会から参加の春日井先生から「誰もいないけど,アルメイダだよね」というお電話をいただく程お待たせしてしまいましたが(申し訳ありません),17時より,吉岡先生,中川先生にとっても懐かしいアルメイダにて懇親会を開催いたしました。春日井先生からは現在置かれている大学や学会の状況や今後の同門会に期待すること等,率直なお話を伺いました。今回は10回目にして初めてお会いできた榊原先生,星野先生等,大学離籍以来ほぼ20年ぶりという先生の参加もあり,会の継続が人の繋がりの場となっていることを改めて実感いたしました。まだまだお会いできていない先生もいらっしゃいますので是非今後のご参加をお待ちしております。