同門会からのお知らせ

【2016年02月05日】榎本昭二先生ご寄稿


東京医科歯科大学インプラント同門会
第13回総会・懇親会のご報告

令和2年1月26日に東京医科歯科大学1号館西9階 特別講堂において第13回 東京医科歯科大学インプラント同門会総会が開催されました。

今回はご講演を3月にご退官される春日井昇平教授にお願いし,今までの大学生活における研究・教育・臨床から感じられた現在の想いを私たちにじっくりとお話しいただきました。
それぞれの年代の方々の思い出と共にインプラント治療部開設以来の歴史を概観・回想しつつご参加いただいた皆さんで楽しい時間を過ごさせていただきました。
次回も多くの会員の皆さまのご参加をお待ちしております。

東京医科歯科大学インプラント同門会
第12回総会・懇親会のご報告

平成30年7月22日に東京医科歯科大学4階演習室において第12回 東京医科歯科大学インプラント同門会総会が開催されました。

13時05分 総会
開会の辞に続き,岡田先生より,現在の役員の任期が満了することから会員の先生方に対し次期役員についての自薦他薦の依頼がありました。また,現在,1月と7月の2回行っている総会を来年より1月のみとし,夏については他の形態での催しを現在検討している旨の報告がありました。

13時30分
和同会歯科技工センター 澤村昌哉先生 ご講演

まず,澤村先生から,医科歯科大学における即時負荷インプラントの歴史と臨床成績についてご講演いただきました。 約4半世紀の歴史からみえてきた知見として,インプラントに与える咬合については現状ではエビデンスに基づいた方法は存在せず上部構造の咬合付与に関しては生体との適合性に細心の注意を払うべきであること,IOD等の補綴においては保険設計タイプの義歯を自費タイプの義歯へと変更していくことが有用であること,補綴の精度と強度には特に注意を払うことが良好な長期予後には重要であること等を実際の症例を供覧しながら分かりやすくご説明いただきました。中でも口腔内での最終調整時の徹底的な研磨の有無がチッピング等の補綴物の破損に大きく影響があるとの指摘は私たちへの大きな戒めとなりました。最後に参加者への特典として特別価格での補綴技工のおまけのご案内もいただきました。

14時05分
鶴見大学歯学部クラウンブリッジ補綴学講座 小久保裕司教授 ご講演
「インプラント治療にデジタル技術を有効に活用する」

続いて,鶴見大学の小久保教授より,鶴見大学での現在のデジタル機器を用いたインプラント治療の実際と今後の展望について症例を交えながら詳細なご講演をいただきました。 初めに,サージカルガイド及び近年開業医でも導入が進んできている口腔内スキャナー(IOS)を使用したインプラント治療におけるデジタルワークフローについてお話しいただきました。サージカルガイドの使用により,埋入精度向上と上部構造に対する適正位置への埋入が可能になること,及びその際にサージカルガイドの精度に及ぼす要因と精度低下の回避方法について実際の臨床症例を示しながら詳細にご説明いただきました。術後の疼痛もフリーハンドの埋入に比べサージカルガイドの使用では優位に小さくなるとのご教示があり,サージカルガイドの使用が疼痛を減少させるとの知見は開業医の臨床においては精度以上にサージカルガイドを使用する大きなメリットになると感じられました。続いて近年,鶴見大学で導入が始まったロボット手術によるインプラント治療についてこれを実際に行っている手術室の様子を供覧しながらご説明いただきました。この技術の完成によりダビンチ手術同様,歯科でも大学に居ながら離島での手術が行える日がそう遠くないと感じられる驚くべきお話でした。

15時20分
明海大学歯学部歯周病学分野 林 丈一郎教授 ご講演
「インプラント周囲のソフトティッシュマネジメントを考える」

林教授は岡田会長がぺリオの教室に在籍していたときに指導を受けた先輩であり恩師にあたる先生です。ご講演の冒頭では入局間もない頃の活気盛んな若き岡田先生に驚かされた昔話もご披露いただきました。本題ではまず初めに,インプラント周囲炎の発症率についてお話がありました。埋入後9年後のインプラント周囲炎罹患率はインプラント体単位で25%,患者単位で45%とのスウェーデンの報告があり,実にインプラント体4本に1本,患者の約半数に発症がみられているとことでした。この数字には会場にいた多くの先生が驚かれたようです。周囲炎と関連する要素としては①30%以上のプラーク付着率,②30%以上のBOP陽性率,③角化粘膜の幅が2mm以下であることの3つが特に関連が強く,林先生のロジスティック回帰分析を用いた研究によれば,3mm以上の骨吸収に与える因子として,粘膜の可動性の存在が強く示唆されたとのことでした。以上から,インプラント周囲炎の予防には如何に角化歯肉を存在(温存・獲得)させ,埋入部位の粘膜を動かなく出来るかが重要であるとの知見を多くの研究を基にご教示いただきました。そして次に実際の臨床において粘膜を動かなくするためには4mm以上の角化歯肉の存在が必要であると考えられるという具体的なメルクマールを根拠と共にご説明いただきました。さらに角化歯肉を獲得するための複数の具体的手技について臨床スライドにより分かりやすくご教授くださいました。中でも半月上歯肉弁歯冠側移動術は,私たちが明日から診療室で行える手技としてとても有効なものでした。

16時50分
暑さのおかげで乾杯の待ち遠しくなった夕方より,ご講演いただいた先生方もご参加いただき,金子先生の発声によりアルメイダにて懇親会を行いました。 今回は他の学会総会等々(WDAIも)と日程が重ったことから,参加調整が困難となった先生も多かったとのことで大変申し訳ありませんでした。次回総会において今回お会いできなかった先生方とも是非また旧交を温めたいと思っております。来年1月にまた皆さんでお会いできることを楽しみにしております。

東京医科歯科大学インプラント同門会
第11回総会・懇親会のご報告

2017年1月21日(日)13時より1号館西・9階/特別講堂にて第11回総会が行われました。今回は春日井教授,並びに同門会会員でもある岩手医大の高藤恭子先生に現在までの臨床経験に基づき今考えるインプラント治療の在り方等についてご講演いただきました。

13時05分 総会
まず岡田先生より,平成25年の同門会設立から現在まで過去5年にわたる活動履歴や会の状況等につき報告がありました。現役員の任期が今年12月までであることから次期役員についての検討も会員間でお願いしたいとのお話もありました。続いて金子先生より会計の中間報告と会費納入のご依頼がありました。総会の最後に昨年ご結婚された長尾先生に同門会よりお祝いをお贈りさせていただきました。

13時35分
春日井昇平先生(東京医科歯科大学インプラント外来教授)ご講演
「インプラント臨床で長期良好な予後を得るための7つの鍵」

春日井先生からは,医科歯科大学インプラント外来における長年の臨床経験を通じて現在,春日井先生が考えるインプラント治療の長期成功において本当に鍵となる7つのポイント(Seven Keys)についてご自身が経験された経過良好・不良を織り交ぜた多様な症例を供覧しながらお話しいただきました。春日井先生が現在考える長期にわたり良好な予後を得るためのSeven Keysは以下の通りです。具体的症例の詳細は個人情報が多数含まれていたことから詳述を控えますが,ご講演を通じて春日井先生の約20年にわたる外来での経験を聴く者が追体験として実感できるとても臨床の経験値が高まったお話でした。

〈Seven keys〉
1 Proper examinations and treatment planning
2 Proper implant placement
3 Presense of keratinized-mucosa
4 Proper load to the prosthsis and the implant
5 Cleanable prosthesis
6 Controlled periodontitis and good oral hygiene
7 Proper maintenance

そして春日井先生が本当に私たちに伝えたかったことは,最後のスライドに込められていました。

『What is the key to keep a good relations with everything in the world ?』
It’s 『 Appreciation !』
(感謝する理由がないのであれば悪いのはあなたです。)

インプラント治療を題材として,人生において本当に大事な鍵を我々会員に気付かせ,授けて下さったとても親心あふれるご講演でした。

14:45~ 高藤恭子先生(岩手医科大学 補綴・インプラント学講座)ご講演
「リカバリー症例とその考察」
高藤先生からは岩手医大に赴任されてから手がけられた症例のうち除去・再埋入を伴うリカバリーを行った症例の検討から得られた知見につきご講演いただきました。岩手医大に赴任してから行った骨移植を伴う症例,埋入即時負荷症例のうち経過不良症例を敢えて詳細に考察し,これらに対するリカバリーの手法とその経過を示すことで,日常の臨床で私たちが陥りやすい失敗を未然に防ぐとともに,どの様な点を重視して再治療の計画を選択・立案すべきかについてご教授くださいました。症例の詳細はその性質上割愛させていただきますが,改めて過去の治療を振り返ることで治療の客観的側面に加えて当時ははっきりとは認識できていなかった主観的な要素が,治療時に感じていた以上に治療結果に影響を与えていたことがご自身の大きな気づきであったことを率直にお話し下さいました。治療結果はシビアなケースになるほど患者さんとの人間関係が結果に与える影響が大きいこと。解剖学的状況の把握と共に患者さんの人間性の理解,術者との良好な関係の構築が如何に重要であるかを深く理解できた意義深いご講演でした。

講演の最後には,4月14(土)・15(日)日に盛岡の岩手県民情報交流センター「アイーナ」で開催される日本デジタル歯科学会のご案内がありました。

http://www.kokuhoken.jp/jadd9/

今回は,岩手医大/近藤先生・鬼頭先生・高藤先生の教室主催でありますので,是非皆さん,学会を口実に盛岡に溢れる名所・名物・名酒を味わいにお出かけください。

16時15分 セインツにて懇親会
ご講演いただいた春日井先生は当日朝ベトナム出張から帰国されたばかりとのことでありましたがお疲れにもかかわらず懇親会にもご参加いただき現地の様子などについてもお話しいただきました。今回は盛岡から高藤先生とともに,近藤先生,鬼頭先生もお越しくださいました。岩手医大の近況の他,普段は中々公言できない赴任以来現在までの道のり等についてもお酒と共に色々と楽しく語っていただきました。テーブルの一つでは「ショートインプラント」って実際のところどう?という話も盛り上がっていました。今では8mmに加え6mmのインプラントも珍しくなく,下顎であれば6mmでフィックスの上部構造が可能であること,今後は4mmのインプラントも発売され,使用が珍しくない時代となるだろうとの中堅の先生の意見があり,50代以上の先生方にはショートインプラントに対する認識も10数年前とは隔世の感があるようで驚かされておりました。他にも各テーブルでは其々に盛り上がっていましたが,今回は参加者全員が同門会会員ということで昔の医局会に一瞬タイムスリップした様な雰囲気の講演会・懇親会となりました。(偶然にも隣の演習室では菅井敏郎先生が,卒後研修会でサイナスリフトの実習講義を行われており実習終了後,ご挨拶にお越しくださいました。)

残念ながら今回お会いできなかった先生方とはまた夏の総会での再会を楽しみに致しております。

次回の同門会総会は,平成30年7月21日(日曜)13時より,「鶴見大学補綴学講座の小久保裕司先生」,「明海大学歯周病科の林丈一郎先生」,「和同会技工センターの澤村昌哉先生」のご講演を予定しております。是非日程をご調整の上,ご参集をよろしくお願いいたします。

東京医科歯科大学インプラント同門会
第10回総会・懇親会のご報告

2017年7月9日(日)13時より歯学部付属病院4階演習室にて第10回総会が行われました。今回は歯内療法専門医の吉岡隆知先生,審美領域のインプラント治療でご高名の中川雅裕先生にご講演いただきました。

13時05分 総会
まず岡田先生より,今回で総会も節目の10回となったことから今後の会の運営として,学術的な講演と懇親の場というそれぞれの側面にメリハリをつけた運営を検討していますとのお話がありました。次に金子先生より会計の中間報告と会費納入のご依頼がありました。

13時20分 石渡 正浩 先生 ご講演
『医科歯科大学における即時負荷インプラントの臨床成績』

石渡先生からは,医科歯科大学インプラント外来における即時埋入症例の検討から得られた知見をお話しいただきました。検討対象とした86症例/412本のうち脱落は6.3%・26本生じており,脱落症例には「上顎」・「埋入時トルク35N未満」・「インプラント体長さ10mm以下」という共通点がみられました。
石渡先生の臨床経験と今回の検討から,即時埋入に際して次の提言がありました。①埋入は骨質のよいところへ。②インプラント体全体のアダプテーションをタイトにし35N以上のトルクをかける。③テーパー形状のインプラント体は避ける。④埋入がカラー部でとまっているものは骨吸収がみられていることから骨縁までインプラント体を埋入する。⑤暫間補綴装置の形態に注意を払うこと。⑥ガイドを過度に信用せず使用時には精度・適合を確認する。
近年は開業医でも前歯部審美領域やIODなど免荷期間を短くするニーズは高く,多数の症例写真・解説を交えながらの即時負荷のコツ伝授のご講演はとても興味深く聴かせていただいました。

14時15分 吉岡 隆知 先生(東京医科歯科大学非常勤講師 吉岡デンタルオフィス)ご講演
『歯内療法専門医からみたインプラントの適応』

吉岡先生からは歯内療法治療の極みと,歯内療法専門医が感じるインプラントの必要性についてご講演いただきました。歯内療法は日常臨床において最も頻度が高い治療の一つでありますが長期予後等について纏まったお話を聞く機会は意外と少なかったのではないでしょうか。今回は実際の症例を通して歯内療法の匠の技についてじっくりとご供覧いただきました。
歯内療法の分野では予後に関して「サバイバルレイト」と「サクセスレイト」という概念があり,いわゆる生存率を「サバイバルレイト」と呼び,根尖病巣がない(消失した)割合を「サクセスレイト」と称しているそうです。そして専門医の治療では「5年サバイバルレイト」89%,「サクセスレイト」75%という統計結果がでており,数値が経年的に小さくなっていくのが根管治療歯にみられる特徴(インプラントのサバイバルレイトは経年的にあまり変化しない)とのことでした。根管治療歯では,有髄歯よりも最大咬合力が優位に高く,アンキローシスを生じた歯は経年的に低位になる(これは他の歯が微妙に(0.07mm)萌出している為相対的にそう見える)等の報告が近年行われており,この問題はインプラントにパラレルに生じるものであることから,対策は今後の課題・研究テーマになるのではないかとのご意見がありました。
インプラントと比較される歯の移植に関しては,適切な治療であれば20年程度は良好に経過するが,最終的に歯根吸収が生じるため,患者さんの年齢や部位等を考慮する必要があり予後については事前の十分な説明が必要とのご指摘がありました。
米国においては,①エンド②クラウン③ブリッジ④インプラント,英国では①エンド②再エンド③インプラントの順で治療が選択される傾向が報告されており,エンドにより保存するか,インプラント治療を行なうかの最終的な決定には保険制度の影響もあるが,特異的状況と一般的な因子の両方を考慮する必要があるとのご教示をいただきました。

15時25分 中川 雅裕 先生(八王子市 中川歯科医院)ご講演
『包括治療におけるロンジェビティー:歯周組織・インプラント周囲組織の重要性』

中川先生からは,インプラント治療における戦略的な審美・機能回復についてご講演いただきました。
まず治療においてはトータルで物事を考えることが必要であり,ストラテジーとタクティクスが重要,「戦略なき戦術には勝機なし」であること,そして計画を実践できる技術(埋入手技は勿論,角化歯肉の処理技術等々)を日々磨くことが必要であるという基本理念について実際の症例での具体的経過を示しながらお話しいただきました。
そしてご自身の四半世紀に亘る臨床において経験された多数の症例を難易度・部位に応じて詳細にご説明いただきました。特に難易度の高い前歯部歯肉マージンラインの回復においては骨のマネージメントが大切であり,gingival recession の予防には唇側に少なくとも2mm(GBRを行うなら4mm)の骨が必要とのご指摘がありました。実際の臨床の場面で骨を残し,乳頭組織保存のためには抜歯前の歯根を(MTAで根充するなどした上で)暫間補綴物の内面にゴムを装着し挺出させる等の手技が有効であることや,結合組織移植に用いるドナーとしては上顎結節後ろの歯肉が特によいこと,サージカルガイドは中級者では使いがちであるがズレを生じた経験もあり現在は使用していないこと等,ご自身のご経験から得られた貴重な知見をご披露いただきました。
症例のご説明では難易度をご自身の趣味であるゴルフにリンクさせたユニークで大変綺麗なスライドをご用意くださり,同じ症例でも初心者・中級者・上級者では見えている景色が違うこと,そして次に狙っている地点も異なること,現在の自身の経験値を客観的に把握し,今の技術で最も効果的に攻略できる作戦を立てられることが大事であること,など歯科医師としての臨床に対する姿勢についても深く熱くお話しいただきました。
「スタンスをとってしまえば全ては決定したのだ,なすべきことはただひとつ,Ready to Go!」という言葉が心に残るとても印象深いご講演でした。

17時 アルメイダにて懇親会
講演の質疑応答が盛り上がり,懇親会から参加の春日井先生から「誰もいないけど,アルメイダだよね」というお電話をいただく程お待たせしてしまいましたが(申し訳ありません),17時より,吉岡先生,中川先生にとっても懐かしいアルメイダにて懇親会を開催いたしました。春日井先生からは現在置かれている大学や学会の状況や今後の同門会に期待すること等,率直なお話を伺いました。今回は10回目にして初めてお会いできた榊原先生,星野先生等,大学離籍以来ほぼ20年ぶりという先生の参加もあり,会の継続が人の繋がりの場となっていることを改めて実感いたしました。まだまだお会いできていない先生もいらっしゃいますので是非今後のご参加をお待ちしております。

東京医科歯科大学インプラント同門会
第9回総会・懇親会のご報告

2017年1月15日(日)13時より歯学部附属病院4階特別講堂にて同門会第9回総会が開催されました。インプラント外来は昨年が創設20年と節目の年でありましたが,同門会も今年で5年目を迎えました。今回は初の試みとして学外の先生2名,河奈裕正先生(慶応大学医学部/歯科口腔外科学講座准教授),今村栄作先生(横浜総合病院/歯科口腔外科部長)にご講演をお願いいたしました。

13時05分 総会
初めに,岡田常司会長から同門会の創設以来の活動や現状についての報告がありました。昨年は奨励賞の該当者がなかったため,次回(平成29年)の受賞者の奨励金は倍額となっております。
続いて金子先生から会計報告が行われ,会費の納入状況等の確認を行いました。今年度の会費納入期限は1月31日(火)です。同門会も回を重ね次回で10回を迎えることから,今後の運営や講演内容についての率直な希望につき,この場を通じてリクエストをお願いさせていただきました。

13時25分 今村 栄作先生 ご講演
「顎骨造成手術における併発症~対処法と予防のためのワンポイント~」
今村先生からは,インプラント治療におけるマイナー及びメジャーボーングラフトについて豊富なご自身の症例や論文のデータを示しながらお話しいただきました。
ボーングラフトの種類,材料など顎骨造成手術の全般的なご説明に続き,骨移植はトリミング不足等による粘膜の哆開などで短期・中期に合併症が起こると骨吸収のリスクが高まること,内側性の骨移植では3mm残存骨があれば人工骨を優先した方が患者さんの負担が小さく,予後も良好なこと等,臨床における骨移植のポイントについてのお話がありました。
今村先生は長く救急病院に勤務されていたこともあり,普段はなかなか私たちが目に出来ないようなシビアな症例も多くご提示いただきました。中でも,腫瘍などで口蓋を除去した後の欠損部を頬脂肪体で被覆することにより口蓋(の粘膜と骨)を綺麗に再建した症例には,「こんなことが出来るの?!」とのどよめきが会場から生じておりました。
この点については井上先生からも質疑でご質問があり,頬脂肪体には骨芽細胞が豊富に存在しているため口蓋の再建にはとても有効であること,耳鼻科の先生もあまりこの術式については知識がなく勿体ないと感じていること,現在オブチュレーターで対応しているケースもかなりこの術式で対応できるのではないかとの今村先生のご見解等のご回答がありました。
また,榎本先生からもこの術式自体は20年以上前から口腔外科領域では行われており,当時論文としても纏めているので参考にしてもらいたいこと,現在でも有効利用されてよい治療法だと思いますとのお話がありました。
最後に,インプラント治療の為の骨造成についてはご自身の臨床統計を基に5年目以降に吸収がみられるケースが増加するとのデータをお示し下さり,この中では現在国内・海外の学会等が示している基準は中期・5年未満の統計予後に基づくものが多く,移植骨の骨吸収の問題点の本質を見落としているとの鋭いご指摘がありました。骨移植の長期予後や骨移植の基準等についての先生の見解は近く論文として発表されるとのことです。
今村先生のご講演からは,インプラント治療においては十分なインフォームドコンセントと術前診断の重要性は治療の前提であり,術者として重要なのは,経験・先人の知見に基づく長期の予後予測と,的確な手術手技の修練であること,そして,治療においては医療人としてのフィロソフィーが必要であるとの言葉が心に残りました。

14時50分 河奈 裕正先生 ご講演
「下顎腫瘍患者への審美的結果を意識した骨移植とデンタルインプラント治療」
河奈先生からは審美的なゴールを目指したインプラント治療について豊富な臨床例を示しながら,現在までの臨床経験から得られた治療における様々な知見をお話しいただきました。
まず,顎骨再建を伴う治療に訪れる患者さんの多くは,ある日突然,疾患により歯や顎骨を失ったため,元の姿に戻りたいという気持ちを強くもって来院されること,まずは患者さんのこの気持ちを認識し理解できる術者であることが良好な治療結果を得る上で重要であるという主観面の大切さについてお話しいただきました。
その上で,この患者さんの気持ちを尊重しつつ,治療として出来ること,出来ないことを術前に説明し理解して貰い,患者さんの選択を得ながら最終ゴールを設定することが治療結果の高い満足度を得るためには必要なこと,そしてこの治療のゴールから逆算した治療(トップダウントリートメント)において骨移植は審美的にも有用な手段の一つであるといった総論についてのお話しがありました。
そして次に具体的治療における各論的なお話しに移りました。初めにマイナーボーングラフトの様々な手技の説明があり,続いてご自身の症例を示しながら審美的な顎骨再建について詳細なご教授をいただきました。
インプラント治療前処置として骨移植が必要なケースの多くは歯槽骨の唇・頬側的な吸収に加え垂直的な吸収もみられるためこれを一回的に解決できるためのマイナーボーングラフトとしては,Jグラフトが有効との実例を交えたご説明がありました。
下顎枝外斜線や腓骨から採取したJ型の1つの骨が実際に歯槽骨を垂直的かつ頬舌的に増加させているスライドには多くの先生の興味深い視線が集まっていました。
遊離骨移植のテクニックとして固定スクリューの頭が粘膜を傷つけないよう移植骨にザグリを付与して骨内にスクリューを収めることや,トリミングが重要であること,何よりも母骨との密着度を高めることが成功率を高めること等,様々な臨床上のテクニックに加え,何よりも骨移植を雑にしないことが良好な結果の為に大切であること等について豊富な症例によりご教授をいただきました。
また,審美的な回復は最終的に補綴物によるところが大きいため,残存歯の状況を十分考慮しこれと調和のとれた上部構造を作りやすいフィクスチャーの埋入位置を設計することが重要であるとのご指摘がありました。
補綴物の設計においては母骨に埋入したインプラントの支持を軸に設計を行うことや,上部構造が両側に亘るときには,反対側の同名歯にフィクスチャーの埋入は行わず,ポンティックとしオベーク形態を付与すると審美的に良好な結果を得られやすいこと,骨移植後のインプラント治療部位は歯頸部ラインが低くなるため残存歯の歯頸部を考慮し,場合によっては調整することで全体の調和を図ることが有用であること,部位によっては骨移植によらずピンクポーセレンによるセラミックガムも有効であることなどご自身のご経験から得られた貴重な示唆に富んだ知見のご説明をいただきました。
質疑では,現在研究の行われているiPS細胞によるヒト由来の人工骨利用の可能性についての質問がありました。これに対しては,ヒト由来(の自家的?)人工骨であっても単独で垂直的骨造成をおこなうことはなかなか困難ではないかとのご見解をお話しいただきました。
「美しきものは機能的である」「著名な先生のみ行える治療は芸術である,多くの患者さんが救われ,恩恵を受けられるためには医療技術は芸術であってはならない」「術者は鍛錬により高い技術を備えていることは治療における当然の前提である」「経験により得られた医療技術は国を超え,世代を超えて常にバトンタッチされ,患者さんに還元されていくべきものであること」などご講演を通じて随所にお話しいただいた河奈先生の信念と思えるお言葉は,とても心に深く響きました。
そして最後に,河奈先生がドイツ留学の帰国時に指導教授から送られた「IMPLANT ENTWICKLUNG」(インプラントは社会に浸透し患者さんに寄与するものである)という言葉を想い出のスライドと共に私たちにもお伝えいただきました。

16時35分 オークラメディコにて懇親会
榎本昭二先生の医科歯科大学へのインプラント導入時のご苦労やスウェーデンでの初めてのブローネマルクインプラントの出会いの想い出話等を交えたご挨拶、並びに乾杯のご発声により、16時35分より懇親会をメディコ(医学部付属病院16階)にて開催いたしました。
懇親会にはご講演いただいた河奈先生・今村先生ご両名もご参会いただきました。お二人からは,インプラント治療を手探りで始めたころのご自身のトラブルや,その際の先生方の対応,そしてトラブル時にどの様な気持ちを持って患者さんへ対応して乗り越えてこられたか等々,中々講演の質疑では伺えないような内容についても率直なお話を聞かせていただきました。
お二人の言葉に共通していたのは,「手技を磨いて目の前の患者さんに誠実に対応すること,治療は患者さんの為に行うものであって自己の経験の為に患者さんがいるのではないこと」といった理念であったと感じました。
河奈先生,今村先生はお二人とも癌を始めとした腫瘍摘出後の顎骨再建を臨床の日常とされており,患者さんの生命予後とQOLを比較衡量した上で,治療の選択肢を提示し患者さんのライフステージを意識した歯科・口腔外科の臨床を実践されている姿が深く伝わってきました。
次回総会は歯内療法専門医が考えるインプラント治療について吉岡隆知先生(東京医科歯科大学非常勤講師・吉岡デンタルオフィス),審美歯科領域のインプラント治療ついて中川雅裕先生(中川歯科医院)のご講演を予定しております。
今回お会いできなかった会員の先生方も是非今年夏・7月9日(日)の次回総会でまたお会いしましょう。

東京医科歯科大学インプラント同門会
第8回総会・懇親会のご報告

2016年7月24日(日)13時より歯学部附属病院4階特別講堂にて同門会第8回総会が開催されました。今回は,現役医員の秋野徳雄先生,本学歯周病学分野の秋月達也先生,並びに本学高齢者歯科学分野の水口俊介教授の3名にご講演を行っていただきました。

13時 総会
会長・岡田常司先生から同門会の現状等のご報告があり,続いて金子先生から会計報告が行われました。各議題は全会一致で承認されました。その後,今年ご開業される中村先生(8月)・鶴見先生(10月)のお二人に開業に際しての決意・抱負をお話しいただきました。予防を重視し,歯を残す治療をモットーに患者さんと接していきたいという点で二人の考えは共通しておりました。これは外来でのインプラントによる欠損補綴を経験した末に至った境地だと思いますので,地域に理念を浸透させられるよう是非頑張っていただきたいと思います。

13時20分 秋野徳雄先生 ご講演
「外側性骨造成を目的とした立体型骨補填材の開発」

秋野先生からは,臨床的に難しくまた課題も多い外側性の骨造成と,これに関する現在研究の進んでいる人工骨についてご講演いただきました。骨造成では自家骨の採取が量的に不十分となることが多いことから人工骨の研究は現在も盛んに行われています。近年では,ジャガイモやサトウキビにも含まれるポリ乳酸のうちの,ポリDL乳酸と多孔性HAの組み合わせが海綿骨と同程度の圧縮強度があり,骨伝導の促進力の高さからも有効な知見が得られているとのことでした。また人工骨の使用に際しては体内の全蛋白質の3割・28種類あるコラーゲンを添加すること,組織に傷を付け細胞浸潤を図ることが有用である等の研究から得られた知見を豊富なデータ・スライドを示してお話しいただきました。

14時00分 秋月達也先生 ご講演 
「どうしてインプラントと歯周病は仲が悪いのか!」

秋月先生からは歯周病専門医からみたインプラントの有用性と問題点等についてご講演いただきました。レントゲンでは診断が難しくあまり知られていないセメント質剥離の治療,インプラントを守る咬合が天然歯の過剰咬合・垂直破折と因果関係を有するとの指摘,歯周病罹患患者のインプラント喪失割合は健常者の9倍と優位に高いことなどにつき詳細なデータと実際のケースを示しながらお話しいただきました。さらに,インプラント治療を行なう先生に参考としてもらいたい指針として「歯周病治療の指針2015」「歯周病患者におけるインプラント治療の指針2008」(いずれも日本歯周病学会HPからダウンロード可)のご紹介もいただきました。

15時15分 水口俊介先生 ご講演 
「高齢者に対する義歯治療とインプラントオーバーデンチャー」

最後は,インプラント治療部創設時からインプラントに関わっておられる本学高齢者歯科学講座の水口教授にご講演いただきました。超高齢社会における健康寿命の延伸に関しては,口腔機能の維持と筋力維持が有効であり歯科の役割がとても大きくなってきていること,これに伴い近年注目されているオーラルフレイルについてまずお話しいただきました。そして,最近のIOD(インプラントオーバーデンチャー)の考え方についても実例を交えてご説明いただきました。40代後半の先生が現役の頃は,オーバーデンチャーと言えば,インプラント4本に対してドルダーバーまたはマグネットによる維持が通例であったと思いますが,近年では下顎では2本のインプラントでも4本と大きな差異はなく,シングルスタンドインプラントも義歯の維持には有効と考えられているようです。その後,IODの義歯もあくまで総義歯が基本であることから総義歯についての講義も行っていただきました。義歯の吸着に重要な「顎舌骨筋群」「後顎舌骨筋窩」「サブリンガル」等の解剖学や,コンパウンドの使い方等,学生時代以降不鮮明であった記憶が覚醒した先生も多かったのではないかと思います。

16時50分 グリル・セインツにて懇親会
長尾先生のご挨拶をスタートに、16時50分より懇親会をセインツにて開催いたしました。今回はご講演いただいた水口先生もご参会いただき,学生時代に学生実習のライターとしてお世話になった話や,インプラント治療部創設の頃のお話,さらには最近はまっているカジキマグロの釣り方まで,四半世紀に亘る様々な思いで話等に花が咲きました。会も今回で8回目となり,同門会を通じて初めて知り合った先生方もかなり顔馴染みとなり全体としての一体感が感じられた会となりました。
次回総会は慶応大学の河奈裕正先生,横浜総合病院の今村栄作先生のご講演を予定しております。今回お会いできなかった会員の先生方も是非来年1月15日(日)にまたお会いしましょう。

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榎本昭二先生からご寄稿をいただきました

榎本昭二先生(東京医科歯科大学名誉教授・インプラント治療部初代部長)より同門会会員・現役医局員に向けたご寄稿をいただきました。
インプラント治療部発足に至る経緯や当時の様子,現在まで続く榎本先生のインプラント治療に対する深い想いを私たち後輩に伝えて下さっております。

~榎本昭二先生・ご寄稿~
『インプラント治療部事始め』

東京医科歯科大学インプラント同門会
第7回総会・懇親会のご報告

2016年1月17日(日)13時より歯学部特別講堂にて第7回総会が開催されました。

今回は、鈴木章弘先生,宗像源博先生, 並びに仙台よりお越しいただいた山田将博先生の3名にご講演を行っていただきました。
名誉会員である榎本昭二先生(元東京医科大学第二口腔外科教授・インプラント治療部部長,東京医科歯科大学名誉教授)を始め春日井昇平先生,塩田真先生,立川敬子先生等々多くの先生方にご参加をいただきました。

13時 総会
始めに会長・岡田常司先生から昨年より導入した同門会研究奨励賞や新役員等についてのご説明があり,続いて山口先生による会計報告が行われました。各議題は全会一致で承認されました。

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その後,塩田先生から12月3・4日に本学主催にて開催される「日本顎顔面インプラント学会総会」(http://www.jamfi.net/についてのご案内がありました。
今回(第20回)の日本顎顔面インプラント学会は東京医科歯科大学インプラント・口腔再生医学分野が主幹となります。
同門会会員の先生方の積極的な学会参加(出席・演題発表等)をよろしくお願いいたします。
学会準備・運営に際し,ご協力をお願いさせていただくこともあるかと思います。その際は可能な範囲でご助力いただければ幸いです。

13時20分 研究奨励賞受賞講演 鈴木章弘先生 
「上部構造の固定要式がインプラント周囲炎のリスクファクターとなるか」
インプラント周囲炎におけるリスクファクターとして,上部構造の固定要式がどの様に影響するかという観点からの研究発表を行っていただきました。セメント固定には,縁下セメントの取残し,仮着セメントの溶出による維持力低下等の問題がありインプラント周囲炎の大きな要素と考えられているようです。このため現在はスクリュー固定が主流となってきているとの報告でしたがセメント固定が主流であった時代の(一回り上の)先生方には多少驚きをもって受け止められていたようでした。

13時50分 宗像源博先生 ご講演 
「インプラント周囲炎 ~ダークサイドに堕ちないために~」
宗像先生からは,冒頭で先日講演に行かれた中国の様子や,歯科心身症の患者さんについてのお話があり,続いて本題であるインプラント周囲炎についてご講演いただきました。周囲炎発生機序についての従来の説の真実に反する事実や問題点と,宗像先生の研究から明らかになってきた実際の発生機序,並びにインプラント周囲炎を生じさせない治療計画の考え方について斬新かつ本音のお話が多く,日々の臨床での考え方の整理が出来た先生も多かったことと思います。スクリュー固定の場合にアバットメントがインプラント体に直接接合・荷重することの問題とこれを解決するために現在開発している新たな製品についてもお教えいただきました。

15時20分 山田将弘先生 ご講演 
「インプラント表面性状の理解:骨結合から軟組織付着まで」
山田先生からはインプラントの表面性状に関する内容についてお話しいただきました。近年,様々な表面性状を持つインプラント体が各メーカーから発売されています。果たして何が有効なのか,またどのように考え選べばよいのか。山田先生ご自身の研究成果,並びにそこから見えてきた有効な表面性状の要件やその見極め方等について詳細な実験データをもとにお話しいただきました。中でも未だ誰も実現出来ていないインプラント体と歯周繊維の結合能を持つインプラント体の開発に向けた大胆で精力的な試みには様々な質問がありました。歯周繊維によるヘミデスモゾーム様の封鎖能を有したインプラント体の実現も夢ではないと強く感じさせてくれるとても興味深いご講演でした。

16時40分 オークラカフェ&レストラン メディコにて懇親会
今回は,春日井先生,立川先生もご参加いただき,名誉会員である榎本昭二先生のご挨拶をスタートに、16時40分より懇親会を開催いたしました。冒頭,今月3日にご逝去された顎顔面外科・原田清教授のお話やインプラント外来創設時のお話もあり,様々な世代の先生方が20年の年月の経過を実感できたひと時となったのではないかと思います。懇親会を通じて新たに世代を超えた気脈が通じる様子は同門会の一番の存在意義ではないかと回を重ねるたびに感じております。残念ながら今回お会いできなかった会員の先生方も是非夏にまたお会いいたしましょう。次回総会を楽しみにしております。